(草稿)99%の人が知らない「文章の書き方」

評論家の勝間和代さんが、キンドルのワンコイン文庫で「あなたも本を書いてみよう」というものを書いていた。
それに触発されて、私が各地の文章講座で教えている内容を、同じぐらいの分量(約1万5000字)で書いている。
その草稿の第2章までを、ここで公開します。近いうちに、どこかのサイトから電子本形式で出版しようと考えています。(まだ未定)


99%の人が知らない「文章の書き方」


 はじめに


 皆さんにお尋ねします。
「小学校から大学まで、遠足の作文や、レポート、論文など数百回も文章を書いたでしょうが、その文章を先生かプロのライターにきちっと添削してもらったことはありますか?」
 私は、講演や文章講座で何度もこの質問をしてきましたが、ほぼ99%の人が「そんな経験はない」といいます。
 残りの1%は、たまたま親切な先生に出会ったか、外国で学んだことがある・・・ということでした。
 そーーーなんです。
 世界中のほとんどの国で、国語教育で「文章の書き方」を教えるのに、日本だけが国語の正課に「文章の書き方」がない、不思議な国なのです。
 そのことから、国際化が進む中で、「日本人は何を言ってるのかわからない」などと言われるのです。外国語を学ぶ前に、自国語の「基礎の基礎」ができていないのです。
 日本人は「議論べた」とも言われますが、議論をする前提として、自分の考えを明快に相手に伝える訓練ができていないので、議論する資格すらないのです。
 私は、「日本は民主主義国家になり切れてない」ことを情けなく思っています。その根本的な原因は、「表現力=文章の書き方」をおろそかにしてきたことが根本原因だと思います。
 「文章の書き方」については、書店には何十冊もの本が出ています。何冊か手に取ってみましたが、ほとんど落第です。
 唯一、「これは的を得ている」と思ったのは、ベネッセ・コーポレーションで文章指導指導をされていた山田ズーニーさんが書かれた『伝わる・揺さぶる! 文章を書く』(PHP)新書)だけでした。
 私は日本経済新聞の記者として、約20年で約1万本の記事を書きました。また日経と『日経コンピュータ』誌のデスクとして、5年間に数千本の記事添削をしました。さらに、これまでに4冊の単著を出版しています。
 それらの経験から、仮に「坪田メソッド」と呼ぶ文章術を考案し、2011年からの2年余りに200人以上の受講生を教えてきました。下は高校1年生から、最高齢は84歳の方までです。
 受講生は一人の例外もなく、文章が上手になり、格段の進歩を遂げた人もいます。この本では、「初級編」として、約1万5000字の文章で、「坪田メソッド」のエッセンスをお伝えします。この本の続編として、個別の事例を続編として出版して行きますので、ご期待ください。


   目次(仮)

はじめに
第1章 いい文章とは何か
第2章 さあ書こう!
第3章 読み手を引きつける冒頭の工夫
第4章 リズム感をどう作るか
第5章 何を伝えるか(実例を使って)
第6章 点検の方法=文章の「カキクケコ」
第7章 私の文章講座


第1章 いい文章とは何か


「いい文章」の要件は以下の3つです。

1) 何を言いたいのかが明快・簡潔
2) リズム感があって読みやすい
3) 筆者の気持ちが伝わる


 私はデスク時代、1000字の文章をわずか5-10分で添削して完成版にするという極限の仕事をしてきました。その時、「どんな文章も、一番大事なセンテンスは一つだけ」と定義して、それを拾い出して、それをきれいに説明できるように前後を構成する・・・という方法で乗り切ってきました。
 どんな長い本も、大事なことはたった一つです。長大な『平家物語』も「祇園精舎の鐘の音、諸行無常の響あり、沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす」――これが「核心文=キーセンテンス」で、あとの全部が、この文章の具体例の提示なのです。
 逆に言えば「あれもこれも」書いた文章は失格です。「大事なことは一つだけ」・・・それを守ってください。2つ書きたければ、別の文章にしましょう。
 
 日本では文章の達人が書いた『文章読本』として評価を得ている本が3冊あります。最初が1934年に書かれた谷崎潤一郎のもので、次に1959年の三島由紀夫、1977年の丸谷才一のものです。
 さすがに達人たちの「書き方」のエッセンスが詰まっているのですが、ここではお薦めしません。これらはプロの物書きになろうという人たち向けです。私のこの本は、「普通の人が一段上を目指す」のが目的です。「上手な文章」ではなくて「わかりやすい文章」「共感される文章」を目指します。

文章のリズム感ですが、以下の2つを見て、皆さんはどう思われますか?
■は文字です。


A)
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B)
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 お近くに本があれば、ページを開いてみてください。A)のように文字がぎっしり詰まっているものと、B)のように2-3行で改行されていて、右側に空白があるものと。皆さんはどちらが読みやすいと思いますか?
 論文など難しい本は、A)になりがちです。
 芥川賞作家の宇能鴻一郎氏は官能小説の大家でしたが、彼は「うふん」とか、一行で改行する独自の文体で、本の下半分が真っ白というのもありました。これはちょっとやり過ぎですが、「文章は短く、改行は多目に」をお薦めします。この(横書きにした時)右側がギザギザになるのがリズム感だからです。
 ブログなどでは1段落が3行から7行ほどで、1行の空白を作るやり方が普及しています。これはパソコン通信時代からあるもので、パソコンで画面をスクロールして読むには適しています。
 文章のリズム感については、第4章で詳しく書きます。

 最後は「筆者の気持ちが伝わる」ですが、これは、「思いを込めて書く」のが大事だということです。
 文章というのは「自己開示」の行為です。自分を隠しながら、何かを伝えようというのは、かなり難しいことです。「自分はこう思った」「こう考えた」という気持ちがなければ、読者には伝わりません。
 このことは第5章で詳しく書きます。


第2章 さあ書こう!


 文章を書き始める時に、一番大事なことは「上手に書こう」という意識を捨てることです。
 『週刊文春』に、「ホリイのずんずん調査」を長期連載していたコラムニストの堀井健一郎氏は『いますぐ書け、の文章法』(ちくま新書)で「?うまく書きたい?とおもってる意識そのものに問題があるので、それをちゃんと取り除けばいい」と書いています。
 また「文章を書くことの根本精神はサービスにある」と書いています。
 私も、職業としての物書きになって40年以上になりますが、堀井氏の意見に賛成です。
 とにかく、普通の人が「うまく書こう」としたら、ろくなことが起こらりません。名文の文句をつぎはぎしたり、変に恰好を付けたり。それでは読者は引いてしまいます。
 とにかく、文章は「読者に読んでもらう」ものです。そのことを忘れたら無価値です。読者を意識しない文章はすべて落第。書くこと自体に意味がありません。

 では、最初にどうするか。
 自分が書きたいことは何かと考えて、それを一つの文にして、書いてみる。
「どんな人も、ちょっとした知識でグンと文章が上手になる」

……たとえば、この本を書く時の私の気持ちを書けば、そういう文章になります。

「毎日、ご飯を作ってくれるお母さんに感謝したい」
「学校の先生に叱られて、自分の欠点に気づいた」

――というのもいいでしょう。
 この文を書いておいて、それを説明するために、全体の文章を書いていくのです。
「学校の先生に叱られて、自分の欠点に気づいた」でしたら、いつ、何をしている時に叱られたのか、その時自分はどう思ったのか? さらに時間が経つにつれて、叱られたことからどのように反省して結論を得たのか。そして、今後はどうしようとしているのか?
 そのように考えて、文章を書いていきます。

 とにかく、書けるだけ書いてください。
 いまは、ほとんどの人はパソコンで文章を書きます。あとでいくらでも直せます。
 とにかく、吐き出せるものは全部吐き出してください。それを直す作業が10倍あると思ってください。
 実は、この本で書くことは「文章の書き方」よりも「文章の直し方」です。
 最初から、「直しがゼロ」で完成品の文章を書くことは、どんな文豪にもできません。どんな文豪も最初は下手だったのですから、ご安心ください。

 文章の量として、私は「1500字」というのをお薦めしています。
 なぜかというと、400字(原稿用紙1枚)は、短すぎて、内容が詰め込めない。3000字は初心者にはちょっと負担が大きい。さらさらと書くには1000字以上、2000字以内が程よい分量なのです。

 文章というと「起承転結」とか「序破急」がいい文章のスタイルだと言われますが、それは意識する必要がありません。意識すると素直に書けなくなってしまいます。書いてみて、結果的に「起承転結」だったり「序破急」なのはOKです。
 
「自分はずぶの素人」と自覚している人には、逆三角形の文章をお薦めします。
「逆三角形」は新聞の文章のことです。 
 新聞では、紙面をレイアウトしている時に大事件、例えば「北朝鮮がミサイル発射」とかが起きたら、その記事を入れるために、すでにレイアウトされている記事を短縮しなければなりません。いちいち全部読んで細かく直す時間の余裕はありません。その時、文章が逆三角形(大事なこと先頭に書き、補足的なことを最後に書くような構成)になっていれば、後ろから段落単位で削れるのです。
 ということで、まず「結論」を書き、その説明をそのあとに順次書いていくというのが、簡単でわかりやすく、おススメです。
 例えば、「私はタコ焼きがすきだ。縁日の屋台で食べたのが初めてだった。以来、大好きになって、とうとう『たこ焼き器』を買うまでになった・・・・」とかです。
 
 欧米の人に「上手な文章は“起承転結”です」などというと笑われます。なぜ「転」があるのか? 欧米の文章は、結論を冒頭に書き、それを説明する・・・というスタイルが標準です。「わかりやすくていい」と思いませんか。

 日本では、冒頭に言い訳を書いたり、事情を周辺から説明したりで、結論は最後だったり、後半だったりする文章がほとんどですが、こういうのはやめましょう。
 現代は、「文章は読んでもらえない」時代 なのです。夏目漱石芥川龍之介が活躍した、明治や大正の頃とは大違いです。
 とにかく、現代は忙しい。一方で情報は洪水のように溢れていて、読み手は面白くもない文章に付き合う余裕がないのです。だから「読ませる」工夫がないと読んでくれません。
 だったら、結論を先に書く方が、読者に親切なのです。

<お断り>ブログのフォントサイズの指定が面倒で、途中の■■の部分がうまく表現されていません。申し訳ありません。