「ある」から「する」へ

「ある」から「する」へ

 どうも、世の中がおかしいんじゃないか−−と思いつつ、それをどういう切り口で整理すべきかと考えていました。8月末頃に、六本木で慶応の院生2人と遅くまで飲んでいて、一つの結論に達しました。
 それは、「『存在』よりも『行為』が大事」ということです。これはあらゆることに言えると思います。
 20年ぐらい前に、一橋大学の伊丹敬之教授にインタビューする用件があった。ところが時間が取れないという。「大阪に出張です」という。「それなら新幹線の中で」と座席番号を聞いてみどりの窓口で隣席を予約し、東京−大阪間、3時間ほどじっくり話を聞かせて頂いた。
 「日本の経営者の中で、優れていると思う人は誰ですか」という質問に、伊丹氏は「日本の経営者のほとんどは社長になることを目標にして頑張って来た人で、社長になってからは、その地位に甘えてビジョンも行動力もないのが大半」と大変辛口の話を伺ったのを覚えている。
 
 仕事で名刺を交換する時に、相手の名前と肩書きを見た上で、「何をされているのですか」と私は聞く。相手は怪訝な顔をして、肩書きを示して「こういうことをしています」という。そう言われると、私は一気に興ざめして、話を簡単に切り上げたくなる。
 例えば営業部長でも、「こういう商品を売っていて、こういう工夫をしているんですが、なかなかうまくいきません」などというと、「売ろう」という熱意を感じで、あれこれと質問しながら、面白い情報交換が成り立つ。
 
 昔、まだ平社員だった頃、パソコン通信を普及させることについて意見を求められ、自社の役員に、かなりまとまった改善提案をしたことがあった。「我が社のやり方は、世間の常識とは正反対です。パソコン通信サービスの一部にデータベースがあるべきなのに、データベースサービスの一部にパソコン通信を位置づけるのは、どうやってもうまく行かないと思います」と述べたら、提案を求めたはずのその上司は、急に怒りだし、「俺は常務だ。お前にそんなことを言われる筋合いはない」と言った。そこで、「何が常務ですか。戦略の妥当性について、真剣に考えて私は意見をまとめたのに、『常務に文句を付けるな』では、考えることは初めから徒労だったと言うことですが。話になりません」と、当時、私も若かったので言い捨てて出ていったことがありました。
 
 こういう話も、「『存在』よりも『行為』が大事」という考えに至ったベースになっている。
 
 世の中の社長さんに問いたい。「あなたは社長であることを誇らしく思いますか」と。それよりも「社長だからできることをしっかりやる」−−その姿こそが社員の尊敬を集める原点ではないでしょうか。
 
 最近のプロ野球のゴタゴタを見ていて、球団の社長とか代表とかという人たちの決断力、実行力のなさには、かなりあきれました。オーナーの側用人だから仕方がないのかも知れませんが、「野球をどうするか」というビジョンが全然感じられなかった。
 この騒動を大きくしたのは、ナベツネ・オーナーの「たかが選手の分際で」という発言だった。ナベツネ氏の頭の中には、「野球経営の道具(コマ)に過ぎない選手が、経営の問題に口を出すのは思い上がりだ」という観念があったのだろう。これも「オーナーである」という存在を前提にした傲りだ。大事なことは「野球の危機に対して、どのようなビジョンを持って解決しようとしているのか」という『姿勢』『意思』『行為』の問題ではなかろうか。
 
 ある人を「偉い」という。どうして「偉い」かは、その人の社会に対する役割と、その役割に対する行為の質の高さから来るものではないだろうか。
 
 「人間国宝」という人たちがいる。伝統芸能の役者とかだ。重要無形文化財ともいう。逆に普通の国宝は有形だ。この「人間国宝」の人たちは、その演技に価値があるのであって、そこにただいるだけで価値があるわけではない。そこを間違えてはいけない。
 
 ということで、「『存在』よりも『行為』が大事」ということ、優しく言えば、「『ある』よりも『する』が価値がある」という考えですが、読者の皆さんのお考えを聞きたいと思います。


<追加>
 先日、NHKの「クローズアップ現代」で、北海道の旭山動物園が入場者数日本一になったということ。その秘密は「行動展示」という、動物の行動の面白さを見せるという工夫だ−−ということを園長が話していた。

 この話は、私の上記の話と通底している。ただ座っているだけのオランウータンなら、図鑑で見るのと変わらない。実際に木の上でやっているようなことを見せて、「ホー、すごいなあ」と思わせなければ、人は見に来ないのだ。当たり前のことを当たり前にやることが重要だと、納得しました。

 それについて、以下のblogで書いていたので、リンクを張っておきます。

http://d.hatena.ne.jp/pongpongland/20040923